広田淳一様より

 

木村恵美子のカバンは、いつも信じられないぐらい重い。演出助手として公演に参加してもらう機会が何度かあったので、ふとした折に、ああ、それじゃカバン持ってあげるよ、なんて軽い調子で持ってみたのだが、腰が抜けるかと思うぐらい、重い。な、な、なんだこりゃ、鉄アレイでも入ってるわけ? というと、彼女としてはあくまで必要最低限のものを持ち歩いているだけらしい。ノートパソコンに各種資料に、テープ類、メジャー、読みかけの本、その他、あれやこれや……。

見た目は華奢で若々しい普通の女の子なんだけど、かわいらしさの欠片もない凶悪な重さのカバンを彼女はいつも持ち歩く。きっと、いつでも戦闘態勢でいたいんだろう。さっそうと軽やかに街を歩くことよりも、イザという時にあれがないこれがない、と言い訳したくないんだろう。そう、木村は諦めの悪い女なのだ。

そんな木村が芝居を打つという。彼女の作品は戯曲でだけ何度か読んだことがあって、若者らしい葛藤と情熱に裏づけられた、まあ、比較的泥くさい、けれど力強い作品を書くな、という印象を持っている。劇作家、演出家にとって何が必要な資質なのか、なんてことを断定的に述べることはできないけれど、どうしても必要だろうと僕が思うのは、しぶとさだ。様々な人と交渉し、演技/演出のプランを行き渡らせ、誤解を受けてはそれを何度でも修正していく、その執念だ。もちろん、舞台作品は最終段階では多くの不必要なものを捨てて、ある種の洗練に至ろうとするわけだが、その過程ではなるべく多くのものを貪欲に積み込もうとする姿勢が重要になる。諦めの悪い女があれやこれやを背負い込んで、さて、どんな洗練に至るのか。楽しみにしたいと思う。

広田淳一(アマヤドリ 作・演出・主宰)